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第8回 「介護サービス情報の公表」制度について |
● 第4回「利用者による介護サービス(事業者)の適切な選択に資する情報開示の標準化について」でふれた、介護サービス事業情報の公表」制度が改正介護保険法の施行に伴って実施されることになった。東京都では、知事が指定情報公表センターに「財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団」を指定した。そして、当社は「指定調査機関」に指定された。
● 「介護サービス事業情報の公表」制度とは、介護保険制度の基本理念・・・利用者本位による適切な事業者選択を通じたサービスの質の向上が図られること・・・の実現を目指して、「利用者の権利擁護、サービスの質の向上等に資する情報提供の環境整備を図るため」に創設されたものである。事業者は、「介護サービス情報」の公表が義務付けられることになった。尤も、全ての事業者ではなく、次の9つのサービスを提供する事業者で、前年の介護報酬額が100万円を超えるものが対象となる。都内では、約8400事業所である。
@訪問介護 A訪問入浴介護 B訪問看護 C通所介護 D特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、軽費老人ホーム) E福祉用具貸与 F居宅介護支援 G介護老人福祉施設 H介護老人保健施設
● 公表される情報は、「基本情報項目」と「調査情報項目」である。
「基本情報」は、利用料金、職員体制など基本的な事実情報で、事業者が報告した情報がそのまま公表される。
「調査情報」は、介護サービスの内容や提供事業所の運営状況などの情報で、事実確認の調査を行なった上で公表される。
「指定調査機関」は、この「調査情報」の事実確認のために事業所に対して訪問調査を行なうのである。
公表の主体は事業者で、情報の内容に対する責任はすべて事業者が負うものとされる。従って、事業者は指定調査機関の事実確認の結果に対し同意しないこともあり得る。
● 「調査情報項目」は、大項目、中項目、小項目、確認事項及び確認のための材料から構成されている(次表参照)。
種別
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大項目
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中項目
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小項目
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確認事項
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確認のための材料
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@訪問介護 |
2
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10
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29
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63
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78
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A訪問入浴介護 |
2
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10
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28
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62
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74
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B訪問看護 |
2
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10
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33
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68
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81
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C通所介護 |
2
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10
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32
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64
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96
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D特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、軽費老人ホーム) |
2
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10
|
31
|
67
|
96
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E福祉用具貸与 |
2
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10
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26
|
57
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63
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F居宅介護支援 |
2
|
10
|
26
|
50
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56
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G介護老人福祉施設 |
2
|
10
|
30
|
74
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124
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H介護老人保健施設 |
2
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10
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34
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73
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120
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大項目及び中項目は、サービスの種別を問わず共通に設定されている。大項目は、「T介護サービスの内容に関する事項」と「U介護サービスを提供する事業所又は施設の運営状況に関する事項」の2つである。
中項目は、大項目ごとに5つづつ設定されている。
Tの中項目は次の5項目である。
1 介護サービスの提供開始時における利用者等に対する説明及び契約等に当たり、利用者の権利擁護等のために講じている措置
2 利用者本位の介護サービスの質の確保のために講じている措置
3 相談、苦情等の対応のために講じている措置
4 介護サービスの内容の評価、改善等のために講じている措置
5 介護サービスの質の確保、透明性の確保等のために実施している外部の者等との連携
Uの中項目は、次の5項目である。
1 適切な事業運営の確保のために講じている措置
2 事業運営を行なう事業所の運営管理、業務分担、情報の共有等のために講じている措置
3 安全管理及び衛生管理のために〔講じている措置
4 情報の管理、個人情報保護等のために講じている措置
5 介護サービスの質の確保のために総合的に講じている措置
次に小項目は、サービスの種別ごとに26項目(福祉用具貸与)から34項目(老人介護保健施設)まで設定されている。
注目されるのは、福祉用具貸与を除くサービスの種別では大項目Tに関する項目の方が多いことである(もっとも多い介護老人保健施設ではTが22項目に対し、Uは12項目のみ)。このことから、この公表の制度では、介護サービスの内容が重視されていると見られよう。
そして、これらの小項目について「確認事項」及び「確認のための材料」が示されている。1つの小項目に対し、「確認事項」は1から13項目設定され、さらに、1つの「確認事項」に対し「確認のための材料」が1から6項目示されている。この結果、「確認のための材料」は、上表に見るように、56項目(居宅介護支援)から124項目(介護老人福祉施設)まである。
東京都福祉サービス第三者評価の評価項目との比較
「介護サービス情報の公表」制度
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東京都福祉サービス第三者評価
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大項目(2)
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組織マネジメント+サービス提供のプロセス
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中項目(10)
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カテゴリー(8) サブカテゴリー
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小項目
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評価項目
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確認事項
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確認項目
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確認のための材料
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● 事業者には、この「確認のための材料」の『あり』、『なし』を報告することが求められる。
ただし、「確認のための材料」については、「あらかじめ記載されている確認のための材料はないが、 確認事項及び確認のための材料の内容を踏まえて、あらかじめ記載されていない確認のための材料を報告する
ことが可能な場合には、当該材料名を「(その他)」欄に記載するものとする。」とされている。
一方、「指定調査機関」は、事業者が『あり』と報告した「確認のための材料」又は、 「(その他)」欄に記載した「確認のための材料」について、事業者を訪問し、面接により事実確認を行うのである。
いうまでもなく、事業者が『なし』と報告したものについては調査は行なわない。
3月に行なわれた調査員養成研修では、「確認のための材料」について『留意点』が示されていた。これらの『留意点』は、記載に当たって留意しなければならない事項であるとともに、
事実確認の判断基準ともいえるものといえよう。これを参照しながら、事業者は記載し、調査員は事実確認を 行うことになる。東京都指定情報公表センターからは5月下旬頃に調査票が事業所へ送付されるようであるから、
その頃には、『留意点』も明らかにされるであろうと思われる。
● 以上、「介護サービス情報の公表」制度のポイントを見てきた。
この制度のねらいは、「多様なサービス提供主体から提供されるサービスの質を確保していく上でも有効に機能すること。このことをサービス提供の現場において保障するため、 公表情報の標準化と情報の公表のルール化を進めるものであり、介護保険制度を支えるサブシステムとして
機能すること」にあると見られる。
『利用者と事業所との間の情報の格差を縮め、多様な事業所の比較検討を可能とし、介護保険制度の下での 介護サービス情報の基盤として機能すること』を期待したいものである。
一方、事業者としては、「調査情報項目」のすべてに取り組み、実行することで良しとすることなく、 独自の行き方、例えば経営資源をハイ・パフォーマンスの達成に投入し顧客満足を図ることが求められることに
なるだろう。
さらに、中期的に見た場合、調査情報項目の見直しや指導監査との連携・合理化は行われるかも注目される。
東京都では、7月から訪問調査が開始される。ACSは、「指定調査機関」として、中立性・公平性の確保に注意を払うとともに、定期的に調査員の研修を実施し、調査が適切に行なわれることを確実にしたいと考えている。(2006.5.7
HK記)
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